しもうら弁天会
*********************************
天草には、江戸時代から300年以上続く「天草土人形」(土をドロと読みます。以下同)という伝統工芸品があります。この伝統を後世に残したいと新しく作り始めたのが、「下浦土玩具」。平均年齢68歳のしもうら弁天会の方たちがアイデアを出し合いながら、日々製作されています。「めじろおし」を代表とする、ほっこりと愛らしい「下浦土玩具」の魅力に、羽田店主もすっかり虜になったようです。
*********************************
縁起物をモチーフとして作られる、手のひらサイズの玩具。眺めているだけで和やかな気持ちに。
羽田:この工房、なんかいいところですね。最高です。あのテーブルとか古い引き戸とかも良い。素敵ですね。
宗像:このテーブルはね。味噌を寝かすときに使っていたものなんですよ。この建物は、主人のもので、70年ぐらい前にお米屋さんに貸していたんですよね。人形のこういうケースなんかも全部お米屋さんで使っていたもの。みんなでたわしでこすってきれいに洗って使っています。古いんですけどね。
羽田:最高。うん、見習いたい。私もお店やるならこういう感じがいいなあと思っています。皆さん、市役所をおやめになった方たちですか?みんなでっていうのがいいですね。
宗像:そういう人が多いですね。私たちの成功の秘訣は夫婦だから。みんな夫婦で入ってるんです。男性だけ女性だけっていうんじゃなくて、だいたい夫婦で会員だから、忙しいから来てよとかいえます(笑)。
羽田:最高です(笑)。今いただいているこの晩柑ジュースもすっごくおいしいですね!
宗像:これも私たちが絞っているんですよ。
羽田:そんな皆さんが作っているから、縁起がいいに決まっていますよ。
宗像:はい、「下浦土玩具」は縁起物で作っています。次回作もとっても可愛いんですよ、恵比寿様なんです。天草は海に囲まれているでしょう。恵比寿像があっちこっちにあるんですよ。その恵比寿様をデザイナーさんがすごく可愛くアレンジしてくれた。あとマリア観音に見立てた人形も可愛いんです。
羽田:マリアさま?
宗像:お母さんが赤ちゃんを抱っこしてお乳をあげている、その光景なんですけど、なんともいえない、パステルカラーの色使いでとっても素敵に作ってくれて。その昔、お母さんたちのその姿をマリアに見立てて、隠れキリシタンが拝んでいたというお話があって、それをデザイナーが作ってくれたんです。
羽田:すごい綺麗な色ですね。
宗像:そしてこちらがめじろおし。これは不動の人気ですね。
羽田:スタッフみんな、これがいいって言っていたんです。可愛いですね。
途絶えてしまった伝統。それを手探りで模索しながら新たな伝統を作り出していく。
羽田:改めて、「下浦土玩具」はどのように生まれたんですか?
宗像:天草には300年以上前から土人形という文化があるんですね。その文化を守っている保存会というのがありまして、その保存会の方たちが伝統のあるものをずっと作り続けておられます。大正の中頃までは、その文化が流行っていたんですが、それをなんとか現代に復活できないかなという思いで、武蔵野美術大学の若杉教授に相談させていただいていたんですよ。
羽田:一時はなくなったんですね。
宗像:そうですね。戦後に一度途絶えて復活して、平成14年でまた途絶えてしまったものをもう1回復活しようと保存会ができたんです。でも、なかなか復活しても広がらなかったので、若杉教授たちがこういう手のひらサイズの現代版の土人形を作って、小さい玩具として作ったらどうだろうって考案していただいて。それが「下浦土玩具」のスタートなんですよ、5〜6年前になりますね。
羽田:そうだったんですね。
宗像:素人の私たちが作り始めて、果たしてできるんだろうかと思いながら、今ももちろん勉強です。手探りしながら、毎年1〜2作くらい新作を出しています。
羽田:いろんな知恵を使って作って、それで縁起物に変えてっていう。
宗像:そうですね。そしたらロサンゼルスから買い付けに来られて。本当にびっくりしました。ありがたいですね。
羽田:伝統って一度廃れちゃうとね。
宗像:そうなんです。たまたま型が残っていたからできたんです。当時は、天草の土を使っていたけど、私たちは信楽の土がすごく扱いやすくて、キレイに白く出来上がるので、使うようにしています。
羽田:じゃあ伝統の上に新しい伝統を作っている最中っていう感じなんですね?
宗像:そうです。昨年、信友社賞という大きな賞をいただいたんですが、まさにそれがそういうことなんです。伝統工芸が無限というか、もちろん伝統工芸が昔のそのままであってもいいんですけど、そこからまた新しいものを作っていく。伝統工芸は無限にずっと広がっていく。スタートはあまり目立たないものですけど、これが10年、20年と子どもたちが受け継いでいくと、それが伝統工芸になるよというのが若杉教授の教えなんですよね。確かにと思って。
羽田:本当に。伝統をつないでいる最中ですね。
宗像:素敵な言葉ですね!
羽田:いらないものは淘汰されていくと思うんですけど、自然に復活したということは、やっぱり伝統を残してほしいっていう。なんか先人たちの、聞こえない声もあったんでしょうね。しもうら弁天会は、天草に昔から伝わる伝統のものを復活させる会なんですね。
宗像:そうなんです。再生したいという思いがいっぱいなんです。
羽田:すごい優しい。郷土愛ですよね。
宗像:それで、お節介なんです(笑)
羽田:私と一緒ですよ(笑)
地元の小学生や若い親世代にも知ってもらいたい。今ある伝統をしっかりと繋いでいくのが使命。
宗像:作る過程としては信楽の土を水で溶かして、攪拌します。それも私たちは手作りでドリルに棒をくっつけて。自分たちで試行錯誤しました。最初はうまくいかなくて、今は四作目かな、やっと現状のものに行き着いたんです。お料理の計量カップでならすようにしています。
羽田:ちょうどいい量ですよね、カップが入れるのにぴったりでびっくりしました。
宗像:はい。それで石膏型に流して。20分ぐらい経ったら逆さにして、いらない土を全部落としてしまう。そのまま置いておいて、40分後に型が外れますから、外れたのを竹ベラで形成をしてバリを取っていきます。そして、紙やすりで磨いて窯に入れる。窯では700°で焼き上げて、翌日の夕方には出来上がっているんです。
羽田:それも全部試行錯誤して。
宗像:はい。本当に長い道のりですね。ここまで来るのには。
羽田:廃れる前にその作っていた方にお話が聞けていたら…。
宗像:そうなんですよ。ずっと何代目何代目と受け継いでいる人がいるなら、聞けたんでしょうけど。もう廃れていないから。私たちはこれを小さな子ども達に教えていかないといけない。
羽田:残っていきますね、今ちゃんと繋いでいらっしゃるから。
宗像:地元の小学生は全員ここに来ますから。小学2年生のときに全員この工房に来るんですよ。子どもたちの親もまた習いますしね。
羽田:素晴らしいですね!皆さんの思いを応援しています!