無添加 漬物処 菜香や
豊かな水と大地に恵まれた茨城県筑西市で20年、完全無添加の手作りにこだわりながら漬物を作り続ける「菜香や」さんがあります。羽田美智子が初めてそのぬか漬けと出会ったとき、それまで食べてきたぬか漬けとはひと味違う、甘さと香りに驚きを覚えました。生産に手間がかかるため、限られた場所でしか流通していないというぬか漬け。今回は、菜香や社長の遠藤記生さんに、おいしさの秘密を教えていただきました。
はちみつと雪塩で育てたミルキークイーン米のぬかを使用。他にはない甘い味わいのぬか漬けに。
羽田 初めて菜香やさんのぬか漬けをいただいたとき、すごくフレッシュな野菜の香りが口の中に広がって。ぬか漬けの独特なにおいがなくて、でも、ちゃんとぬかの酸味だったり味がして本当にびっくりしたんです。
遠藤 それが好評で、喜ばれているところですね。スーパーなどで市販されているぬか漬けは、アミノ酸や酒粕を入れていたり、長持ちさせるために保存料などを入れているものが多いでしょう? でも、うちはそういった添加物はもちろん、余計なものは一切入れていません。だから、野菜本来の味だとか、ぬかの風味がしっかり出るのだと思います。
羽田 なるほど。あと、米ぬか自体がすごく甘いように感じたんですが。
遠藤 オーガニックで作られた「ミルキークイーン米」という、すごく糖度の高いお米のぬかを使っているからだと思います。実はミルキークイーン米を無農薬で作っている農家さんは、茨城県内では数件しかないんです。
羽田 そんなに少ないんですか!
遠藤 そうなんです。米の無農薬栽培というのはとても難しくて。たとえ自分の田んぼには農薬を使っていなかったとしても、上流から農薬を使った水が流れてくる場所だったりすると、無農薬とは謳えないんです。大型農場と言ってその一帯を借り切って持っているような農家さんでないと、無農薬のJAS規格がもらえないんですね。
羽田 生産量が限定された、とても貴重なお米なんですね。
遠藤 野菜を漬けるものなので、ぬかの残留農薬も気になりますから。いつ精米したかわからない、栽培方法がわからない、品種がわからないというぬかが多い中で、これらがすべてクリアになった、精米したてのフレッシュなオーガニックの生ぬかを使うことにとてもこだわっています。
羽田 そのこだわりが、菜香やさんの味の元になっていると。 毎日田んぼを見に行って、しっかり手間暇かけて。例えば米ぬかをいただいている大嶋農場さんでは、はちみつや、沖縄の雪塩を田んぼに撒いてお米を育てているそうなんです。
羽田 沖縄の雪塩って、けっこう高価なんですよ。それは初めて聞きました!
遠藤 はい。そうやって独自の味を追求していらっしゃる農家さんなんです。
羽田 それはますます貴重ですね。
目指すのは「昔の日本に戻すこと」。日本人に合った食で、健康に。
遠藤 お客様にはできれば米ぬかを全部洗い流さずに、米ぬかごと食べてほしいってお話をしてるんです。米ぬかは、食物繊維、ビタミンB群、GABAなどが含まれていて栄養豊富ですから。実は、米の栄養の96パーセントは玄米の皮の部分にあります。米ぬかも皮の一部ですから、栄養たっぷりなんですよ。
羽田 ぬか漬けって乳酸菌も摂れるんですよね。お腹の調子が悪い時なんかに、よく病院で乳酸菌などが入った錠剤をもらうんですが、ぬか漬けを食べればもうそういうの要らないなって(笑)。
遠藤 そうかもしれないですね(笑)。うちのぬか床で漬けた漬物を食べるようになって、お子さんのお腹の具合がよくなったとか、便秘が解消されたとか、荒れたお肌が滑らかになってきたといったお声もいただきます。
羽田 栄養豊富なものをしっかり食べれば、病気なんかもしなくなるかもしれないですね。
遠藤 結局、体って食べ物でできていますからね。日本人の体が弱くなったのは乳酸菌を摂らなくなったから、それも、日本食を食べなくなったからと言われています。
羽田 昔の、日本食をちゃんと食べていた頃の日本人って、お肌とかもきれいじゃないですか?
遠藤 花粉症とかアレルギーもぜんぜんなかったですからね。ああいうのって、現代病ですから。食生活が変わって、体質も変わってきちゃっているんでしょうね。だから、昔の日本の食事に戻していきたいんですよ。私は、ぬか漬けをきっかけにして、昔のようにみなさんにもっと日本食を食べるようになってほしいという想いで、ぬか漬けやぬか床を販売したり、ぬか漬け教室を開いたり、いろいろ活動しています。
ズボラな私にもできる!ぬか床を混ぜるのは3日に一度で大丈夫。
遠藤 みなさんけっこう、ぬか漬けが体にいいっていうことはわかってるんですけど、毎日のお手入れに手間がかかっちゃうんでやれないっていう方が多いんですよね。
羽田 私もそうでした。ぬか漬けにはこれまで2、3回トライしたことがあったんですけど、いずれもダメにしちゃって。一週間くらいロケに出て戻ってきて見たら、上に白い粉がふいていたり、ひどいときは青カビが生えてしまったり……。家を不在にすることが多い私にはやっぱり無理なのかなって、あきらめていたんです。
遠藤 いい菌をうまく育てられるとよかったんですが、違う雑菌が増えてしまったんですかね。でも、白い粉というか、表面に白い膜が出るのは悪いことじゃなくて、菌活動が行われてぬか床が正常に動いている状態だったんですよ。
羽田 そうなんですか?
遠藤 ぬか床の中には、空気が好きな菌と嫌いな菌がいるんですが、空気が好きな菌がだんだんぬか床の表面に出てきて白い膜になるんです。
羽田 あがってきちゃうんですか? 空気が欲しくて?
遠藤 そう、出てきちゃうんです。酵母菌というものなのですが、ぬか床を混ぜることで酵母菌を空気がないところに戻してあげるんですね。すると、中にはいって自然消滅してしまう。
羽田 そうか、ぬか床を混ぜないと、いろんな菌が停滞して正常に活動してくれなくなって、環境が偏ってきちゃうんですね。
遠藤 そうです。空気が好きな菌と嫌いな菌を入れ替えてあげながら、うまく発酵できる環境にしてあげる。それが、ぬか床を混ぜる理由なんですね。
羽田 ぬか床を冷蔵庫に入れれば、混ぜるのは3日に一度でいいんですよね? それを教えていただいてすごく気が楽になりました。
遠藤 それくらいだと負担にならなくてちょうどいいでしょう? 昔の日本は今よりも気温が低かったりして、土間とか涼しい場所にぬか床を置いて毎日混ぜていましたが、今はぜんぜん違うじゃないですか。そこで、冷蔵庫に入れるんです。乳酸菌は20度を境に活性化して発酵が進んで酸味が出るんですが、冷蔵庫に入れるとその活動がゆるやかになる。冷蔵庫で3日がちょうど常温の1日くらいの菌糸の増え方になるんですよ。
羽田 だから、毎日混ぜる必要がないんですね。私は外食も多いんですが、3日に一度くらい家で食事するタイミングがまわってくるので、ちょうどいいです。
遠藤 もし1週間くらい家を空けるときも、野菜を抜いておいて戻ってきてから混ぜてあげればいいんです。あと、野菜を漬けっぱなしにしても、古漬けのようになって楽しめます。
おふくろの味を守りながら20年。”ぬか漬けの父”になりたい。
羽田 元々ご実家がお漬物屋さんだったんですか?
遠藤 いえ、ここは20年前に私と母が始めました。私は元々、プログラマーをやっていたんですよ。
羽田 プログラマーですか!
遠藤 はい(笑)。羽田さんもご実家がご商売をされていたそうですが、うちも同じく父方が商売をしていたんです。いつかなにかできないかと考えていたところ、母がずっと作っていた漬物が地元のお土産屋さんなどで評判だったので、これを販売したいと考えたんです。
羽田 まったくの異業種から転身されて、ここまでご苦労なさったんじゃないですか?
遠藤 模索と失敗の連続で。最初は浅漬けから始めたんですが、そのうちぬか漬けも作ろうと考えて、お米屋さんに行っていろいろなぬかで試しました。でも、ぬかが臭かったりして、どうしても自分の理想とするぬか漬けにならなかったんですね。そこで、たまたま店から10分くらいの場所で無農薬で生産をされている知り合いの米農家さんに相談したときに、そこの「ミルキークイーン米」のぬかを勧められて。試したところ、それまでとはまったく味が違っておいしかったんです。
羽田 私、ぬか漬けに失敗し続けていたときに菜香やさんのぬか漬けに出合って、本当においしくて。もう自分でぬかを漬けるのはやめて、ここで出来上がったものだけを買おうって決めていたんです。でも先日、遠藤社長がそれならもう一度漬けてみたほうがいいって、ぬか床を分けてくださったじゃないですか。漬け始めたらやっぱりおもしろくて。
遠藤 でしょう? 自分で漬けるとやっぱり愛着がわきますしね。ぬか漬け教室の生徒さんにもお伝えするんですけど、ぜひぬか床に名前を付けてあげてください。
羽田 名前ですか?
遠藤 ぬか床の誕生日、つまり「作った日」と「名前」を、容器に書いてあげるんです。そうやって愛情もってやると、つい混ぜてあげたくなるじゃないですか。ぬか床を持って帰られた生徒さんたちも、「ぬか子ちゃん」とか「ダニエル君」とか、けっこう個性的な名前を付けてくださっているみたいで。そうやって愛情をこめておいしいぬか漬けができると、ずっと続けたいって思うみたいです。
羽田 確かにそうすると、ますますぬか床が愛おしく感じますね。いろいろ試してみて、またご報告します。
遠藤 楽しみにしています。これまで数百人のぬか床を見てきた経験があるので、なんでも相談してください。みなさんが失敗しないように見守る、”ぬか漬けの父”になりたいと思っていますので。
羽田 ありがとうございます! 同じ地元で、意識高くこだわりながらやっていらっしゃる方に出会えてうれしかったです。