松下蒲鉾店

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新鮮な魚が採れる天草地方では、練り物もきっとおいしいのでは?
そんな風に羽田店主が期待に胸を躍らせて向かったのが、松下蒲鉾店。3代目店主である松下さんに、おじいさまから続く蒲鉾作りについてお聞きしました。新鮮でふわふわとした食感の絶品蒲鉾、そして天ぷら(関東でいうさつま揚げ)は、ぜひ皆さんの舌でも味わってもらいたい逸品です。

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生の魚からすり身を作って、蒲鉾を作っていく。ふわふわとした食感でとにかくおいしい!

羽田:松下蒲鉾店さんは、創業何年くらいになるんでしょうか?
松下:大正14年からだから、もう95、6年くらいですね。天草でも山の方の出身なんですが、じいさんが海の近くに出てきて魚屋を始めたんです。
美奈子:初代のおじいちゃんは本当に一人で苦労なさって。丁稚奉公に行ってお金を貯めて、自分でまず魚を天秤で担いで回るというところから。それで魚屋を始めて。
羽田:すごいです。お父さまが2代目で、つまり子どもの頃から蒲鉾作りを見ていたんですね。
松下:見ていましたね。手伝いもやらされて、それが当たり前でした。もう覚えてないくらいですけど。大学卒業後に父の勧めで熊本市内の老舗の蒲鉾屋へ修行に出たことがあって、そこの職人さんに混じって仕事をしてみて、自分の未熟さを噛み締めたんですよね。その2年間の経験は大きかったかな。あとは、高知大学で蒲鉾の研究をしている先生がいて、その方に科学的な視点でいろいろ教えてもらったのが今につながっていると思います。
羽田:そんな経験を。こちらの蒲鉾と、他の蒲鉾でどんな違いがあるんでしょうか?
松下:今は生の魚から作らないところがほとんど。
美奈子:冷凍のすり身が流通しているので、それで製品を作るのが主流です。
松下:スケソウダラはアラスカや北米でたくさん獲れるから、すり身まで作って冷凍して全国に出荷しているので、それを用いている蒲鉾屋が多いですね。そうすると山の中でも作れちゃいますし、同じような味の製品が出来上がります。
羽田:わあ、ラッキーです!なんでこちらのお店に惹かれたのかがわかりました。冷凍の魚を仕込むのが主流なところを生の魚にこだわっているんですね!私は自分でいいものを見つける嗅覚のようなものに優れている気がしていて。それだけは自信があるんです!だから今、すごく納得がいきました。


美奈子:魚からすり身を作る工程なんて、お客様の目に見えないところですけど、でもその見えない所を職人たちが汗を流して丁寧に取り組んでいるので、出来上がった製品を褒めていただくのが一番うれしい。
羽田:作り方としては、進化はしているけども、基本は変えずに?
松下:そうですね。最新の機械を取り入れるようになったりもしていますが、魚をすり身にするところから作る、その基本は変わらないですね。市場から競りで売れ残った雑魚扱いされる魚を買ってきて、頭とか内臓をとってすり身から作ることから始めます。内臓が残っていると、苦味が出たりふわふわとした食感にならないため、内臓を取る作業を丁寧にしていますね。

美奈子:ただ100%天草の魚だけで作るわけじゃないです。やっぱり品質を毎日安定させるためには、例えば毎日ボラだけがたくさん取れましたとか、アジだけがたくさん取れましたとなると、味にばらつきが出てきます。スケソウダラは、味は淡泊ですが良い原料でもあるので、日々変わる原料の中で品質のバランスをとっていきます。でも、基本5割以上は自分たちの、天草の魚ですね。
羽田:そうやってイチから仕込んでいくことって大事ですよね。
松下:そういうのを知らずに廃れていくのはね。若い人は魚を使っていると聞くと「生臭い」と思ってしまい、なかなか食べないと聞きます。鮮度の良い魚を丁寧に処理して用いると、クセがなく食べやすいというのが蒲鉾の特徴なのですが、そのあたりが伝わってないというのが現状なんですよね。
美奈子:ちなみに。塩も天草産のもので大江の塩、天草塩の会の「小さな海」を使用しています。私たちが一番信頼している塩ですね。

関東でいうさつま揚げは、天草では“天ぷら”と呼ぶ。生でもおいしい“天ぷら”を堪能して。

美奈子:関東のお客様は(さつま揚げを指して)「これが天ぷらですか」っておっしゃるんですけど。でも、元々天ぷらという言葉の語源は、南蛮貿易時代に降り立ったポルトガル人宣教師が、油で揚げる料理を地域の人に振る舞ったことからなんです。ポルトガル語で料理や調味料のことを「テンペロ」と呼ぶそうです。また、その宣教師さんが振る舞った揚げ物が寺(南蛮寺)で出されたものだから「テンプル」が転じて「テンプラ」と呼ぶようになったという説や、「テンポラ」というキリスト教で鳥獣の肉が禁じられる期間に、魚を油で揚げて振る舞っていたことから揚げ物を「テンプラ」と呼ぶとも。


羽田:へ〜!さつま揚げは、私たちは油揚げみたいなイメージがありますし、このはんぺんはかまぼこのイメージがあります。
美奈子:はんぺんは、白はんぺんと普通の板はんぺんがあって、白はんぺんがふわふわのはんぺんですね。
羽田:関東と違うのねえ。
美奈子:面白いですよ。「さつま揚げ」というのも、江戸の人たちの言葉で、薩摩藩が参勤交代の時に、江戸に持ち込んだすり身の揚げ物である「つき揚げ」を、薩摩から持ってきたということで「さつま揚げ」という名前がついたので。
羽田:なるほど。こちらのさつま揚げ、天ぷらは基本生で食べていい?
松下:生ですね。どうしても冷蔵庫に入れると身がキュッと硬くなるので、それをもう一回揚げたてに戻すにはフライパンで油をしかないで、表面を焦げ目がつくくらいじっくり焼いていただくと、ふわっとした食感が戻ります。


羽田:調味料は、柚子胡椒をつけたり?
美奈子:あとは、お好みでお醤油、生姜醤油、わさび醤油もいいですね。
羽田:そういえば、今回の蒲鉾セットをおでんとして食べるのもおいしいと思うのですが、天草のおでんはどんな味なんですか?
美奈子:蒲鉾の原料にも用いるエソの煮干しと昆布で出汁をとりますね。エソ出汁がすごく上品なので、まず大根とかをしっかり煮込んだ後に、最後に蒲鉾を入れる。そうすることで、蒲鉾から出た魚のうま味が全体に染みて、味がまとまるんです。
松下:関東はどちらかというと東北で作った、“ぼたんちくわ”というでんぷんが多い、しっかりしたちくわを使っていると思います。だから少々煮込んでも大丈夫。というのも、うちのような、あんまりデンプンを使わない生で食べられるようなちくわは、そこまで煮込まないほうがおいしいので。
美奈子:うま味が出切ってしまわず、半分出て半分残ってくれる感じ。
羽田:なんとなく練り物は先に入れて、出汁みたいな感じのいれ方をするけど。
松下:それは、東京の情報ですね。
羽田:おでんセットもいいなって思いますね。お野菜は好きなものを入れて。これからの季節の楽しみになりそうです。貴重なお話ありがとうございました!

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